シャドウ・オブ・ヴァンパイア
吸血鬼という存在は、映画の黎明期から
その影を常にフィルムの中にとどめてきた。それこそ、数限りない吸血鬼映画が
生み出されてきた。
この”シャドウ・オブ・ヴァンパイア”(以下SOV)もまた、そういった吸血鬼映画の
一つであるが、1922年に製作された”吸血鬼ノスフェラトウ”という映画の製作現場を舞台としている。
このノスフェラトウを演じたマックス・シュレックと言う俳優には謎が多く、
その奇怪な風貌から本当に吸血鬼だったのでは?という都市伝説がまことしやかに囁かれてきた。
長く伸びた爪、ぎょろっとした目、魔女の様な鷲鼻。当時のメイキャップ技術でここまでの
吸血鬼が生み出せるのだろうか?
正にこのSOVという映画は、そういう疑問から作られた。もしも、ノスフェラトウを演じた
マックス・シュレックが本当の吸血鬼だったら?そのマックスを演じるのは、ウィレム・デフォー、
マックスを主演女優の血と引き換えに出演させた狂気の監督ムルナウにジョン・マルコヴィッチ。
二人とも、そこに映し出されるだけで存在感が際立つ怪優である。
映画は正に、精緻を極めていた。ノスフェラトウで使われたシーンを巧妙に紛れ込ませ、実際に
撮影された現場なのか、それとも本当に目の前で起こっている事実なのか、次第にその境界線が
あやふやになっていく。映画を撮影すると言う現実の現場に、ムルナウ監督は白衣を着て現れる。
その瞬間、この現場の現実が歪み始める。そして、撮影が進むにつれ、なかなか姿を現さない
吸血鬼役の俳優マックスに対する不安から怪しい雰囲気が漂い始め、そして満を持してマックス登場。
現場は一気に現実感を失う。今、目の前で撮影されている吸血鬼映画は、本当に映画なのか?
それとも、本物の吸血鬼の凶行を目の前にしているのではないか?
カメラの視点は、次第に俳優たちを映し出すのではなく、撮影しているスタッフ達をも映し出していく。
映画の中だけに存在していた吸血鬼の影は、徐々に現実世界へも伸びてきて、ついには、
かかわる人たち全てを飲み込んでしまった。月明かりや、部屋にともされたランプによって
映し出されたその影は、観るものを恐怖に陥れ、魅了して止まない。
そして、映画はクライマックスを迎えるのだが、この映画のクライマックスは、そっくりそのまま
ノスフェラトウのクライマックスに符合する。そう、映画は現実であったという結末を、
そっくりそのまま映し出すのだ。吸血鬼の狡猾ささえも上回る監督の狂気が、映画に幕を下ろす。
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